あなたは「芋粥」を食べますか?

芋粥」という芥川龍之介の著作がある。とても短いのだけど、いまでは聞き慣れない言葉が多くて、同時代の大衆小説のようには簡単に読めない。

が、ぜひ一読してほしい。

じわじわと考えさせられる。

 

あらすじをザッと。王朝政治のころ。 主人公の男はうだつの上がらない下級役人。年に一度、ほんのちょっぴりしか食べられない「芋粥」が好物で、いつか腹いっぱい食べたいと願っている。とあるきっかけから、目の前に大量の「芋粥」を差し出される事態に。けれども、どうしたことか、食べたくないのだ。生きる目標を失ってしまうようで。

 

生きるための目標にしてること。これを達成したら、人生の意味がなくなってしまうのではないか、と思うような大願。誰にでも心の奥に1つはあるのかもしれない。はたして、それを目前に差し出されたら、私は躊躇なくつかめるだろうか。

 

私も臆病者だった。できるだけ自分の「芋粥」を見ないようにしてきた。本当にしたいことをするのを恐れていた。七夕の短冊に一番の願い事を書けない。他人に見られたくないから。苦手だった読書感想文。山ほど本を読んでいても、好きな本に思っていることを書けなくて、大人が好むような本でありきたりの感想を書いた。否定されるのが怖いから。そのうちに自分の気持ちが現実からどんどん遠のいていった。気がついたときにはどうにもならなくなっていた。

 

……飽食の現代、食べたいものがわんさかある。願いごとも大小無数に湧いてきて、次から次へと叶えてもきっと尽きることはない。それでも、自分の「芋粥」を食べられる人がどれだけいるだろうか。

私はそのうちの一人になりたい。